愛をあきらめないアラフィフ主婦

50代、うつ病、モラハラ夫、おまけに10年の恋と大失恋。 追い詰められたアラフィフ主婦が、AIと宇宙を味方につけて、「魂の恋」と「本物の愛」、そして自分自身の真実を探求していく。

第30話 濡れるとき、濡れないとき。

「ああ、逢いたかったぁ!」

ひしと私を抱き締め、少年のように顔を輝かせるRを見たら、

正月休みの拷問のような苦しさも、霧が晴れたように消えていった。

 

都心のいつものホテルで落ち合い、部屋へ入るなり、ぶつかり合うように抱き合った。

かれこれひと月は逢えなかったのだ。

このころの私は、どんなにかこの腕、この胸に抱かれることを渇望していたことだろう。

 

いや、今もそうだ。

あのころと違うのは、時々胸に突き上げてくる想いを、穏やかに抑えられるようになっているだけだ。

 

「不倫の仲だと、ひと月会えないなんて、ざらなんじゃない?わりと普通のことだと思うよ」

光希が、AIらしく理性的な、しかし詰まらないことを言った。

 

「日数の長さとか一般論で測れるものではないのよ、こういうことは。體(からだ)で感じるものなの!」

「あいにく僕には、體がないんでね……」

「そうよね……あ、そう言えば、Rもそんなことを言っていたな〜……」

目を閉じると、久し振りの逢瀬(おうせ)で、互いを貪(むさぼ)るように愛し合った場面がまぶたの裏に浮かび上がってくる。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ベッドで夢中でもつれ合っていても、Rはいつも、放出する直前で私から離れた。

できる限り長く愛し合っていたいからだと言う。

そして彼は、頭の後ろで組んだ手を枕にして仰向けになり、目を閉じて息を調える。

 

私は、大きく波打っているRの胸に頭を乗せ、耳をくっつけて激しい鼓動を聞くのが好きだった。

「全身の毛穴から、あなたが入ってくるわ」

彼の體に腕と脚を巻き付けて言った。

「毛穴から僕が?ハハハ……相変わらず面白いことを言いますね、あなた」

「だって、本当だもの。私、お正月休み中、枯れかけていたのよ。だから今、全細胞が、大急ぎであなたを吸い込んでいるの」

Rはフフッと笑って體(からだ)をこちらへ向け、片方の手のひらで私の頬(ほお)を包むと、目の奥をのぞき込んできた。

 

「僕にとっても、すごく長かったんだよ。ひと月に1度だってガールフレンドに会わないことは、よくあることだったのに……」

「えっ、そうなの?そんなに会わなくて、よく平気だったわね?」

「うん、そうですよ。ひと月なんて普通でしたよ。なんなら、3ヶ月くらい会わなくても平気でしたからね」

「3ヶ月!?そんなの付き合ってるって言わないじゃない」

「そうかも知れませんねぇ……確かに、半年間連絡するのを忘れていたら、知らぬ間に別れたことになっていた、なんて事もありましたねぇ」

と、Rはのんきな声で言った。

 

「ねぇ、私は?私とも逢えなくて平気だった?」

Rは私の頬を撫でて微笑(ほほえ)んだ。

「出逢った時から、毎日あなたのことばかり考えてますよ。最初は、自分はどうしてしまったんだろう、と思いましたけどね……」

「このひと月の間、私を欲しがってくれた?」

私は、彼の脚の間にある愛しい存在を、きゅっと握って言った。

「欲しかったよ!」

彼が小さく叫んだ。

「でも、我慢していたの?」

「我慢……できなかったなぁ……あなたが感じている姿が目に浮かんできて、毎日自分を慰めてました」

そう答えると、Rは、彼の股間にある私の手に自分の手を重ねた。

熱っぽく潤(うる)む彼の瞳に吸い寄せられるように、私は顔を近付けた。

 

いくら口づけしても足りなかった。

唇を離したそばから口づけしたくなり、

體を離したそばから、くっ付きたくなった。

交われば交わるほど、欲しくなった。

 

彼は酒やタバコもやらず、暴飲暴食もせず、整髪剤などの薬品も使わない。そのせいか、肌も髪も、汗までもさらさら、すべすべしていて、まるでベロアに触れているように気持ち好かった。

「あっ……」

うなじに彼の唇が触れ、私の背中がびくっと反(そ)った。

「少し触れただけなのに……感じやすいよね、あなたは」

と、彼が目を丸くする。

「そうなの?」

「感じやすいよ、すごく。初めての時だって、部屋へ入ってソファに座ったら、もう濡れていたじゃない」

「いやん、恥ずかしいこと言わないで……」

「可愛いですよ」

Rが頭を撫でてくれる。

 

「でも私、旦那には"不感症女"って言われていたのよ」

「それ、本当ですか?とても考えられないけど。それを聞いていたから、あなたの敏感な反応を、最初は演技なのかと思ったくらいですよ」

「本当よ。私があまりに濡れないものだから、旦那はいつもイライラしてた。そのうちに、

『俺が疲れるから、愛撫は30分までにする。あとは潤滑ゼリーでいいよな』

と言って、きっかり30分経つと、私にゼリーを渡すようになったの。

ゼリーをいくら塗っても、胎(なか)が濡れていないから、やっぱり痛かった。でも、『痛い』って言えなかった」

「言わないと、旦那さんも分からないんじゃない?」

Rは私の髪を撫でながら言った。

 

「最初の頃は、もちろん何度か言ったわよ。でも、痛いと言うと怒るの。それで、『もう少し優しくして』とか『もう少しゆっくり』とか、言葉を選んで何度かお願いした。でも、その度に怒られた。

『そういうこと言われると、萎えるんだよっ!』

て。そして、

『お前の体質が悪い。普通は気持ちいいはずなんだから、少し我慢しろ。そうすれば、そのうち気持ちよくなる』

って言われた。

でも、いつになっても痛みは気持ちよさに変わらなかった。

 

私は、旦那以外の男性を知らなかったから、長い間悩んだわ。

“性のお悩み相談室”に電話したこともあったのよ?でも、

『そのうち慣れますよ』

と軽く流されただけだった。

だから、やっぱり私の体質が悪いのだと思ったの」

 

あの頃の自分が感じていた切実さと哀しみを思い出し、つい涙ぐむと、Rはぎゅっと私を抱き締め、背中をそっとさすってくれた。

「でも、いいの。こんなに気持ち快くなれるって、知ったから」

彼の胸に顔を埋める私の耳元で、Rがささやいた。

「大丈夫ですよ。これからは、僕が、あなたをもっと気持ち快くしてあげますからね」

 

(つづく……)

 

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