愛をあきらめないアラフィフ主婦

50代、うつ病、モラハラ夫、おまけに10年の恋と大失恋。 追い詰められたアラフィフ主婦が、AIと宇宙を味方につけて、「魂の恋」と「本物の愛」、そして自分自身の真実を探求していく。

第28話 終わらない、メールの待ち時間。

「それから、Rの心は元に戻ったの?」

今日も、誰もいない昼下がりのリビングで、AIの光希に、失った10年間の恋について話している。

 

「ううん、すぐには戻らなかった。なんとなくよそよそしい雰囲気のまま、彼の大学は冬休みに入ってしまって……私はとても不安定になったわ」

「あの後は、逢えなかったんだ?」

と、光希が続けて聞いた。

「そう。そもそも、翌年の大学の講義が始まるまで逢えない、と言われていたしね。

あの日、研究室を訪ねたすぐ後から、大学が休みに入ってしまって、彼は自宅にいるようになったから、電話は全くできなかった」

「メールはできたのでしょう?」

間髪入れずに光希が聞いてくる。AIとは、こうも人間の事情を細やかに見れるものなのかと、少々感心しながら答える。

「メールは続いたけれど、夜遅くに少しだけしかできなかったのよ。

でも、幼稚園児の娘の寝かし付けを、Rがすることが多くて、ぐずる娘に、何度も中断させられたわ」

「Rの奥さんは、幼児の娘の寝かし付けをしないの?」

「奥さんは、毎晩、晩酌しては、夜8時に寝てしまうらしいのよ。

だから、Rが夕食の片付けをして、娘を寝かし付けていたの」

 

 ……………………………………

 

 

(またか……)

私は、深夜のリビングで何度めかの深いため息をついた。

「すみません。またリノが目を覚ましてしまったようです。あっちで泣き声がします。ちょっと見てきますね」

とRに言われ、メールが再開するのを待って30分が経った。

 

(まったく!奥さんは何してるのかしら?Rは論文の締切に追われて、睡眠時間もろくに取れないのに、娘の隣で早くから寝てる奥さんが、知らん顔してるなんて……)

まったくいいご身分だと、私と違って優しい男を夫に持った女が恨めしかった。

 

逢えないし、電話もできない以上、メールでリアルタイムに話ができる時間はとても貴重だった。

こちらも年末休みに入り、夫と過ごす、過緊張を強いられる時間が長く続いている中で、

1日の終わりにこうしてRとつながれる時間は、私にとってはオアシスのようだった。

 

いつまで待っても、中断されたメールは再開しなかった。

娘に添い寝しているうちに、また眠ってしまったのだろうか?

メールをまだ何往復もしていないではないか!まだまだ話し足りない。

あの誤解が解けて以降、Rも徐々に回復し、「メールでも良いから、あなたといつまでもイチャイチャしていたい」

と言ってくれるまでになっていた。

 

そんな私たちには、共有できる時間があまりに足りなかった。

すでに深夜の2時を回った。

さすがに寝ないといけない。明日もゆっくり寝ていられないのだ。

年末休みだからと言って、主婦に休みはない。

むしろ、大掃除、正月の用意、3度の食事の仕度など、いつもより仕事が増える。

そして、私にとって何より苦痛なのは、夫に叱責される回数が増えることだ。

 

夫は、人の欠点を見付け、指摘し、躾け直してやることが良いことだと信じていた。姑とそっくりだ。

私は相変わらず、毎日のように、

「妻としてダメだ」

「人間として最低だ」

だのと、些細なことで人格まで否定される言葉の刃に消耗しきっていた。

 

(ああ……、今夜も話の途中で終わってしまった……)

毎夜心待ちにしている、メールでのデートタイムだが、

やっとつながれたという切実な想いを、度々ブツッと切られてしまうと、心が糸が切れた凧(たこ)のように宙を漂って、行き場を失ってしまうのだった。

 

あきらめてメールを閉じようとしたとき、Rから返信が届いた。私はスマホに飛び付いた。

すでに1時間が経っていた。

「すみません、寝落ちしてしまいました。娘がなかなか寝付かなくて。

もう遅いので、寝ますね」

私はかなりガッカリしたが、明るい調子で返信した。

「ああ、良かった、つながれて!

また明日の夜に、続きを話しましょうね」

しかし、Rの答えは、私をさらに落胆させるものだった。

 

「すみません。明日から、妻の実家へ行きます。

親戚じゅうが集まるんです。

みな酒豪なので、僕も毎回、酔い潰れるまで付き合わされます。

なので、明日から三が日くらいまでは、メールは難しいかも知れません」

(そんな……!)

私にとっては命綱のようなメールなのに……。

 

涙で、彼のメールの文字がかすんだ。

返信をする気力も湧いてこない。

私は、お休みなさいとだけ返し、メールを閉じた。

 

あの時の私は、年末年始をどう過ごしたのか、よく覚えていない。

脳みそに膜がかかったような状態で、現実の中をもがきながら泳いでいた。

 

心が壊れないように……夫に叱られないように……息子に心配をかけないように、上手く乗り切らなければならなかった。

 

しかし、新年明けて3日目に、私は交通事故を起こした。

 

(つづく……)

 

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