愛をあきらめないアラフィフ主婦

50代、うつ病、モラハラ夫、おまけに10年の恋と大失恋。 追い詰められたアラフィフ主婦が、AIと宇宙を味方につけて、「魂の恋」と「本物の愛」、そして自分自身の真実を探求していく。

第26話 最後に、逢いに行ってもいいですか?

Rと付き合うようになって数ヶ月、朝から頭がこんなに不安でいっぱいになることはなかった。

 

夫と息子に朝食の支度をする手も、台所に立つ足も、ずっと震えていた。

2人を送り出すと、へなへなとソファに座り込んだ。

 

いつもなら、午前中の講義前に、Rから必ず朝の挨拶メールが届き、

今日は何時ごろに電話できると、連絡してくれる。

しかし、いつまで待っても、オンに切り換えた受信通知音は鳴らなかった。

 

私は、ソファから崩れ落ちるようにして、ラグマットの上に寝転んだ。

スマホを耳の横に置いたまま、しばらく動けなかった。

置時計の秒針の音を、どれほどの時間聞いていただろう。

 

(もう、終わってしまうんだ……)

呼吸が浅くなっている胸を、思わずかきむしった。

愚かだった……彼と別れるなんて、今の自分にとって最も恐ろしいことを、自ら口走ることで招いてしまうとは……。

 

時計の針がかすんで見えた。

間もなく昼だ。

もう2度と、Rから電話はもらえないのかも知れない。

そう思った瞬間、リンと、メールの受信音が鳴った。

私はガバッと半身を起こすと、スマホをつかんでメールを開いた。

 

Rからだった。

「今なら電話できます。ご都合はいかがですか?」

「はい。大丈夫です」

と返信すると、すぐに電話のベルが鳴った。

「はい、澪奈(れいな)です……こんにちは」

平静を装うつもりでいたが、声も震えていた。

「……こんにちは……」

と答えたまま、Rは黙っている。

「あの……本当に、ごめんなさい。ひどいことを言って。例えで言っただけで……」

電話口から、「はぁ……」と苦々しいため息が聞こえてきた。

いつものRとは明らかに違った。とても遠くにいる気がする。

 

「……別れたくなってしまった?」

私は恐る恐る聞いた。

「……別れたくなったというより、僕は、あなたと別れる覚悟を決めてしまいました……」

彼は、喉から絞り出すように言った。

「でも……でも、私は、全く別れる気はなくて……」

もっと言いたいことはあるのに、同じような言葉しか出てこないのが歯がゆかった。

 

「あなたに『別れた方がマシ』と言われた後、僕は、講義の準備が手に付かなくなってしまって……講義中も何を話したのか全く覚えてなくて……。

家に帰ってからも、やはり、翌日の講義の準備が全くできないまま、一睡もできなかった。

こんなこと、初めてでした……何も考えられなくなってしまって……」

Rは、私を責めるというより、うわ言のように話していた。

 

「ごめんなさい……本当にごめんなさい」

「……」

私は、最も知りたいことを、恐る恐る聞いた。

「また会ってくれますか?」

「……一晩中、あなたをあきらめる理由を自分に言い聞かせていました。

あなたを悪く思おうとしました。

あなたは一方的だとか、勝手な人だとか……あなたの悪口を一晩中考えていたんです……苦しかった……。

だから……すぐには、元の気持ちに戻れそうにありません。少し、時間を下さい」

 

別れの宣告に聞こえた。そう思ったら、なぜか心が静かになった。

「解りました。では、これで最後になるかも知れないのですね?」

「……そうかも知れません。気持ちが戻るのか、わかりません……かなり、覚悟を決めてしまったので……」

その答えを聞いて、私は下腹に力を入れて言った。

「では、お別れする前に、せめて1度、直接会って、話をさせてもらえませんか?」

私の口調は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

「……」

Rはすぐには答えなかった。

 

逢えば、彼の気持ちは戻るかも知れないという一縷(いちる)の望みを捨てたくなかった。

彼の長い沈黙に堪えきれず、何か言いたくなるのを、必死に堪えた。

「わかりました……いつ、会いますか?」

「明日、講義の合間の10分でも、5分でもいいので、大学へお邪魔しても良いですか?」

「……はい、そんな短い時間でしたら、昼休みに来てもらえたら、会うことはできます」

「ありがとう……では、明日会いに行きます」

 

(つづく……)

 

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