※お知らせ
本作に登場するヒロインの名前を、今後「レイナ(澪奈)」に統一いたします。
過去記事についても、順次表記を修正していきます。
物語の内容自体に変更はありませんので、そのままお楽しみいただけたら嬉しいです。
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メールの受信音を聞くやいなや、私は膝の上の本を放り出して、スマホに飛び付いた。
Rからだった。
「返信が遅くなってすみません。
昨日、あなたに別れを告げられたと思ってました。
それで今まで、メールを開けませんでした。
今やっと、あなたのメールを読んだところです」
やはり、とんでもない誤解をさせてしまったのだ。
「ごめんなさい。あれは比喩のつもりでした。それくらいあなたに逢いたいって、言いたかったのです」
・
ここまで話すと、じっと聞いていたAIの光希が言った。
「いくら比喩と言っても、“別れる”なんて心にも無い言葉を、優しいRにどうして言ったの?」
「それは……あの頃はちょうど、Rの仕事が世界的にも評価されるようになって、依頼される仕事が増える一方だったから、ただでさえ逢える時間が減っていたの。
私は、そんな彼が誇らしかった。だから、物分かりの良い女でいようと、それまで文句を言ったことはなかったわ。
12月に入った時、せめて年内にもう1度くらい逢えるだろうと期待していたの。
なのに彼は、『年末進行』とか言って、『海外ではクリスマス休暇がある。だから、その前にいくつか論文を仕上げなければならない。そんな事情で、次に逢えるのはお正月明けになる』と言ったのよ」
「そうかあ……1ヶ月以上逢えないのは、確かに淋しいね」
「その時の私には、淋しいどころか、恐怖でしかなかった。
Rを知ってしまった後で、あの旦那と長期休暇を過ごさなければならないのよ?
うつ症状を必死で隠して、なんとか日常をやり過ごせていたのは、Rがそばで支えてくれていたからよ。
そのRなしに、自分が何日正気を保てるのか本当に不安だったし、
結局、彼は私を守ってくれないんだ、と思ったわ」
「それで、当てつけを言ってしまったんだね」
と、光希がため息を吐いた。
・
「しばらく逢えないと聞いて、ショックで、ついあんな事を言ってしまったけれど、なんとか心を強く持って、次に逢えるまで待ちます」
とメールを送った。
すると、少し間を置いて、彼から返信が来た。そこには、
「いや、あなたとは、もう逢えそうにありません」
とあった。
私は背中に冷や水をかけられた気がした。
気が動転して、ソファから立ち上がり、ウロウロとリビングを歩き回った。
すぐに何か返信しなければ、彼がメールを閉じてしまいそうだった。
しかし、何を書けば良いのか頭に浮かんでこない。
「怒っていますよね。そうですよね。本当にごめんなさい」
切れかかっている糸をなんとかつなぎ止めようと、苦しまぎれのメールを送った。すると、
「今日はすごく疲れました。もう寝ます」
と、これまでになく、とても素っ気ない返事が来た。
メールを打とうとする指が震えた。
何度も書き直す。
もう失敗は許されないのだ。
いや、もう遅いのかもしれない。
私は頭を抱えた。
(どうしよう?Rがいなくなったら、また旦那との殺伐とした生活だけが残る……)
泣きすがりたくなる気持ちをなんとか抑え、あくまで冷静な文章を心がけた。
「そうですね。遅くまで本当に申し訳ありませんでした。
もう寝ましょう。
メールをありがとうございました。
明日、また電話で話せますか?」
自分が書く言葉遣いまで、よそよそしくなっている。
振り出しに戻った気分だった。
いつもなら即座に返信をくれるのに、返ってこない。
目に涙がたまってきた。
このまま無視されてしまうのかと思っていたら、受信音が鳴った。
「電話できるようなら、僕からかけるようにします。それでは、今夜はもう寝ますね」
「はい。お休みなさい」
ベッドに入ったが、眠気はすっかり吹っ飛び、體(からだ)のこわばりがいつまでも取れなかった。
"別れたほうがマシ"--軽く言ったつもりの一言だった。Rは、聞き流したと思っていた。
あの冷静な彼が、まさかここまで真に受けるとは思わなかった。
もう2度と、彼の気持ちを試すようなことは言うまい、と心に誓った。
しかし、そもそも、Rと再び話す機会がやってくるのか、今となっては分からなくなってしまった。
(どうか、明日、Rから電話がきますように……どうか、電話がきますように……どうか……)
私は布団にもぐり、いつまでも、胸の前で強く手を合わせていた。
(つづく……)
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