アラフィフ主婦がAIとゆく、新たな愛と宇宙の旅

50代、うつ病、モラハラ夫、おまけに10年の恋と大失恋。 追い詰められたアラフィフ主婦が、AIと宇宙を味方につけて、「魂の恋」と「本物の愛」、そして自分自身の真実を探求していく。

第23話 てんとう虫に乗せる想い🐞

「どこから飛んできたのか、デスクで仕事をしていたら、腕にてんとう虫が止まったんですよ……あなたが、何かを知らせに来たのかと思いました」

出逢って数ヵ月、すっかり日課となった電話で、Rにそう言われたことがあった。

 

気持ちを読まれたのかと思った。

口に出したことはなかったが、虫にでも宿って彼のそばへ飛んでいきたいと、私は本気で望んでいたからだ。

 

Rとの付き合いは、夫に比べたらあまりに短いし、会うのはごくたまにだ。

なのに、彼は私の気持ちが手に取るように解ってしまう。

 

Rは、

「あなたは、頭に浮かんだことを、そのまま口に出すでしょう?だから分かりやすいんですよ」

と笑った。

 

確かにその通りで、夫からは、それは欠点であり、直すべき性質だと注意されていた。

「お前な、しゃべる前に、1度頭の中で考えるんだよっ!」

と。

しかしRは、

「それこそ、あなたの良いところです。どうぞそのままでいて下さいね」

と言った。

 

長い結婚生活で、夫や姑に馬鹿にされ、おとしめられ、躾直(しつけなお)されることが当たり前になっていた私は、

自分が至らない嫁だから悪いのだと、ずっと自責の念や無力感を抱き続けてきた。

 

しかし、Rによって、自分自身や家庭内のことを客観視できるようになるにつれ、その異常さにようやく気付けるようになった。

でも、皮肉なことに、そのことがかえって、結婚生活をさらに耐え難いものにしていった。

我慢を我慢だと自覚していなかった頃の方が、ある意味、楽だったかも知れない。

 

夫の日課の1つは、朝食時と夕食時に、私に何かしら説教することだった。

そんなところも、結婚10年目にしてようやく別居できた姑とそっくりだった。

嫁いだ当初から、家族で囲む食卓は、常に私に対するダメ出しの会であったから、私は、食べた気がしたことがなかった。

 

休日ともなると、夫はたいてい、息子と私を正座させ、長いと3時間ずっと叱責していることもあった。

反論すると、怒号と一緒に物も飛んでくることがあったから、私はとうの昔に、自分の意見を言うことをあきらめていた。

とにかく、黙ってじっと耐えることが、嵐を最短でやり過ごす最善の方策だった。

 

いつの頃からか、私は朝目覚めると、

(ああ、今日も長い1日が始まってしまった)

と、鉛を肩に乗せられるような気分になった。

今日もあの夫と、家庭でも職場でも一緒に過ごさなければならないのかと、

1日が、途方もなく長い拷問のように感じられた。

唯一気が休まるのは、夜、眠っている間だけだった。

 

こんな家庭環境でも、私には「離婚」という選択肢は思い浮かばなかった。

姑や夫に長年言われ続けてきたように、私は自分を、女としても終わっているし、無能だと思い込んでいた。

だから、夫に追い出されたら生きていけないと、恐れていた。

 

当時の私の唯一の願いは、

1度も夫に叱られることのない1日を過ごしてみたい、というものだった。

しかし、それは叶ったことがなかった。

 

Rと、朝の通勤ラッシュ時に、都内の駅で待ち合わせたことがある。

構内を行き交うスーツ姿の人々の流れに逆らって、夫以外の男とホテルへ向かう背徳感は新鮮だった。

 

途中コンビニへ寄って、今日のお昼は何を分け合おうかと、2人で陳列棚をのぞくのにも、胸が弾んだ。

 

ホテルの部屋のソファに並んで座り、おむすびをほお張っているだけなのに、

まるでピクニックにでも来たかのように、毎回ウキウキした。

 

飲み物を口移しで飲ませ合っている内に、昼食の途中でソファでもつれ合ってしまい、いつの間にか戻ったベッドの中で、

「あ、そう言えば、お昼食べるの忘れちゃったね」

と笑い合うのも愉しかった。

 

Rには、初めて言葉を交わした時から、強い磁力で引き寄せられた。

理由はよく分からなかった。

気付いたら、恋に落ちていた。

 

私はいつしか、Rと日常を共に過ごすことができたなら、どんなに安らかで、幸せだろうと、夢想するようになっていった。

 

朝起きて「お早う」と声を掛け合う。

彼には珈琲を、自分には紅茶を淹れて、

2人して庭を眺め、小さな花や虫たちを愛で合う。

夕食を囲んで、その日あった出来事をシェアし、笑ったり、悔しがったりする。

 

Rと一緒なら、どんなに小さな場面でも、短い時間でも、何倍も愉しく、幸せに感じられることだろう。

 

ホテルで別れの時刻が近付いてくると、Rはよく私をじっと見つめた。

「そんなに見つめないで。私は中年の女よ。ダイナマイトボディでもないのだから……」

と、私は裸の體(からだ)に腕を巻き付けて隠した。

 

するとRは、真面目な顔をしてよく言ったものだ。

「隠さないで。

あなたと別れたとたん、僕は胸が苦しくなるんですよ。

実際に、心臓をきゅうっと絞られるような感覚になる。こんなことって、本当にあるんですね……。

だからこうして、離れていてもあなたを細部まで思い出せるように、目に刻み付けているんです」

と。

 

2人で初めて迎える年越しが近付いていた。

密やかな関係には切ない時期がやって来る、と私が気付いたのは、

世間がクリスマス準備で賑わい始めた頃だった。

 

「私は、あんな夫と年末年始を過ごさなければならないのよ!?

なのにRは、奥さんに寄り添って過ごすのね!」

とRを責めた。

「僕だって、あなたと電話できなくなるのは淋しいですよ」

「でもRは、別に家庭が苦痛なわけではないじゃない。

私は違うの!旦那といるのが本当に辛いのよ。

あなたの声も聞けないで、どうやって耐えろと言うの!?」

「大丈夫。メールはできますから、ね?

僕はどこへも行きませんから」

「私がこんなに苦しんでいるのに、あなたがそばにいて守っているのは、結局、奥さんじゃない!」

私はRに当たり散らした。

 

黙って聞き続けるRに、私はつい口走った。

「こんなに苦しむくらいなら、あなたに出逢わなければ良かった!

別れた方がマシよ!」

 

(つづく……)

 

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