突然、キーンコーンカンコーンという大音量の鐘が響いた。
私は驚いて、思わず彼から體(からだ)を離した。
「大きく響くでしょう?僕の部屋を出てすぐそこの壁に、ちょうどスピーカーがあるんですよ。1日に何度も聞かされてます」
と彼が肩をすくめた。
「これでは、うるさいでしょう?」
と私は眉を寄せた。
「まあ、仕方ないです。慣れれば気にならなくなるもんですよ」
と、彼は涼しい顔をしている。
すると、廊下が騒がしくなってきたので、私はドアの方を見た。
「講義が終わったので、学生たちが教室から一斉に出てきているんですよ」
Rの研究室は、階段の踊り場付近にあるため、上の階にある各教室から吐き出されてくる学生たちが、ゾロゾロ降りてくる喧騒がよく聞こえるのだ。
こんな場所に部屋をあてがわれているなんて、彼が、学内の主流派閥に与(くみ)していないことも影響しているのだろうか?
しかし、これが面当てだったとしても、さほど気にしていないようで、彼は飄々(ひょうひょう)としている。
Rはドアへ歩いて行くと、鍵を閉めた。
「これで大丈夫。アシスタントが時々訪ねてくることがあるけど、まあ、居留守を使うことにします」
彼は口に人差し指を当ててそう言うと、再び私を強く抱き締めた。
そして、キスをしながらゆっくりとカーディガンのボタンを外していく。
「ん?……あれ……?」
カーディガンの下の白いブラウスの上から、私の胸をなでた彼が、いぶかしげな声を上げた。
そして、探るように指で乳首をなぞると、
「あなた、ブラジャー着けてないの!?」
と目を丸くした。
「そうなの……」
私は、少し得意気に答えた。
「どうして?」
「どうしてって……今日は、ほら……愛し合えないでしょう?
だから、1枚でも布を少なくして、服の上からでもあなたを感じられるようにしたいと思ったの……」
「それで、家から着けてこなかったの!?」
「そう」
「まったく、あなたって女(ひと)は……!」
彼は破顔すると、ブラウスのボタンも素早く外し、露(あら)わになった白い乳房にむさぼり付いてきた。
Rは私の乳首を口に含みながら、背中に回していた手を下ろして、スカートをまくり上げた。すると、
「あっ」
と小さく叫び、動きを止めた。
「あなた、パンティもはいてこなかったんですか!?」
彼があきれたように私を見る。
「うん……あなたに触って欲しかったのだもの」
と私は彼の胸に顔を埋めた。
・
今朝、家の玄関を出たとき、秋晴れの空には雲1つなかった。
いつものように締め付けられていない胸は、伸び伸びして呼吸しやすかった。
スカートの下を、肌に直接触れながら通り抜ける冷たい風も、心地好かった。
(ああ、なんて清々しいの!)
薄い布1、2枚取り払っただけで、こんなに軽やかになれるとは思っていなかった。
Rの大学の最寄り駅までは、急行列車で向かった。
列車の振動が、足から秘部へと伝わってくる。
なにやら落ち着かない気分だった。
私は、膝の上に広げた文庫本から顔を上げ、それとなく周りを見回した。
この車両にいる誰も、
トレンチコートできっちり身を包み、澄まし顔で本を読んでいる中年女が、
ノーブラ、ノーパンだとは想像もしないだろう。
私だって、つい今朝方まで、こんな自分を想像したこともなかった。
Rと出逢う前の私が、今の私を知ったら、驚愕(きょうがく)し、そして、軽蔑するに違いない。
それにしても、Rはいたってノーマルで、私にこんな破廉恥(はれんち)を求めたことはない。
私が自ら思い付き、やっていることだ。
正面の車窓に私が映っている。
しかし、その私は、もはや、私が知っている女ではなかった。
彼女が、不適な笑みを浮かべてこちらを見ている。
(私は、「女」を愉しむことに決めたのよ)
その女は、私にそうささやくと、ふふんと鼻を鳴らした。
・
むき出しの尻に手を触れた彼は、何を思ったのか、突然、私の服を次々とはぎ取った。
呆気に取られているうちに、彼も服を脱ぎ捨てた。
2人は、あっという間に全裸で向き合っていた。
(えっ、ここ、職場なのよ!?)
私は戸惑った。
四方を本に囲まれた簡素な仕事場に、あまりに場違いな2人だった。
しかし、この部屋の主は今、下腹部の“それ”を雄々しく起立させて、堂々と立っている。
私は圧倒され、動けなかった。
主は、私をビジネスチェアに座らせると、全身にキスの雨を降らせた。
そして、おもむろに私のふくらはぎをつかみ、両足を持ち上げると、左右の肘かけに乗せた。
(え、待って!?)
私は大いに戸惑った。
Rの顔前で、私は脚をM字に開いている。
夫が、「女のアレは気持ち悪い」と言って、触るのも見るのも避けていた部位。
私も他人に触れられるのは嫌だったし、自分でもほとんど見ることがない場所。
そんな恥部を、出逢って数ヶ月たらずの他人の眼前で、陽光の下、こんなにも露(あらわ)にするなど、あり得ないことだった。
あまりの恥ずかしさに両手で顔をおおったが、なぜか拒む気にならなかった。
むしろ、全てをさらけ出してしまいたい衝動にかられたのだ。
なぜそこまでの気持ちになったのか、この時の私は、自分の変化をほとんど意識できていなかった。
(つづく……)
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