"ピコン"という電子音で我に返った。
(嫌な予感がする……)
私はうとうと閉じかけていた目をハッと見開き、ベッドサイドテーブルへ手を伸ばしてスマホを取った。
「あ~、旦那からだわ……うるさいったらありゃしない」
と思わず舌打ちする。
「どうしたの?」
私の頭を肩に乗せたまま、Rがこちらを向いて、のんびりした口調で聞いた。
「旦那が、今日中に事務所へ荷物を取りに来いって、LINEをよこしたのよ」
時間を見ると、もう3時だった。
至福の時間はなぜこんなにも早く過ぎてしまうのだろう……。
その日も、朝からずっとRとベッドにいた。
トイレと食事以外は、2人ともベッドから離れない。
と言っても、食事だっていつもまともにできたことがないのだ。
食べながらキスしたり、飲み物を口移しで飲ませ合ったりしているうちに、
早々にソファで絡み合い出してしまうから。
私は、ソファで愛されるのも好きだ。
せまいと、ベッドとは異なる体勢を取らざるを得ず、
お互いに苦心しながら、それでもなんとかつながろうと求め合う体熱を感じるのが、好きなのだ。
「急ぐの?」
とRが聞いた。
「どうせ大した用事ではないのよ。いつもそうだもの」
「じゃあ、明日でも良いんじゃない?そう確認してみれば?」
「だめよ。そんな返信をしたら、『なんでだ!?』って怒って電話してきかねないもの。
旦那はせっかちで短気だし、
私がいつも家にいて、いつでも呼び出せる下女だと思っているのよ。
だから、終業までに事務所へ行かないと、すごく不機嫌になるわ。
遅くなると、その理由を聞かれてしまうし」
実際、私はしょっちゅう旦那に呼び出されていた。
友人とカフェでランチ中だと言っても、
「いいから、今すぐ届けろよっ!」
と一方的に言い付けられ、電話を切られてしまうことは、珍しいことではなかった。
そんな時は、私は友人に事情を話して謝り、昼食を途中で切り上げると、大急ぎで自宅へ車を走らせ、旦那の忘れ物を取って事務所へ届けるのだった。
しかし、後日スタッフから聞いてみると、急ぎの用事ではなかったと判ることがほとんどだった。
「今日は、早めに帰らないと……」
と私がため息をつくと、
「そっかぁ……残念だなぁ」
と、Rは口惜しそうに私を抱き締めた。
「ごめんね。せっかく時間を作ってくれたのに」
「大丈夫だよ、また逢えるから」
彼はそう言うと、私の口唇を強く吸った。
私は彼の首に回した両腕に力を込めた。
Rはこの日、大事な会議をおサボりして逢いに来てくれたのだ。
「本当にいいの?Rさん、プロジェクトのリーダーでしょう?」
と心配する私に、彼は言った。
「会議には僕が必要かもしれないけれど、僕に必要なのはあなたですから」
いつもより1時間は早くホテルを出なければならなくなったため、
私たちは残り少ない時間を愛おしむように愛し合った。
(ああ、帰りたくない……帰りたくない……!)
體(からだ)は、ここに居たがっている。
気持ちも、ここに居たがっている。
時が止まればいいのにと、これほど切実に望んだことはない。
私はRにしがみつくようにして、抱かれた。
(つづく……)
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