アラフィフ主婦がAIとゆく、新たな愛と宇宙の旅

50代、うつ病、モラハラ夫、おまけに10年の恋と大失恋。 追い詰められたアラフィフ主婦が、AIと宇宙を味方につけて、「魂の恋」と「本物の愛」、そして自分自身の真実を探求していく。

第17話 「月が綺麗ですね」

Rと過ごした思い出の中でも、心に残っているのは、入浴の時間だ。

 

男女のことはめっぽう苦手なくせに、耳年増な私は、

 

男性は、浮気相手の女性には、なにか"サービスめいたこと"を期待しているのではないかと勝手に気を回し、

 

まるでプロの女性のように、石鹸を泡立たせた自分の全身を使って、Rの體(からだ)を洗ってあげようとしたことがあった。

 

するとRは苦笑して、そんなことをする必要はないと、優しく私を止めた。

そして、一緒に湯船に浸かるよう促し、

私を背後から包み込むように抱きしめた。

 

彼は、湯面から出ている私の肩や背中にしじゅう湯をかけては、全身をゆっくりと撫で続けるのだった。

 

髪や首すじに彼の吐息を感じながら、私は湯船の中でうっとりと揺れていた。

「ああ……なんか、眠っちゃいそう……」

と言うと、

「いいよ、眠っちゃいな」

と、彼が私の頭を肩で受け止めた。

 

こんな至福を知るほど、

夫の元へ戻った時の落差はひどく、

かえって苦痛が増していくという矛盾に、

私はますます引き裂かれていくことになる。

 

私たちは、月に2度逢うのがやっとだったから、

朝と晩には、欠かさずメールで「おはよう」と「おやすみ」を言い合い、

午後には、彼が、講義や教授会の合間に毎日電話をくれた。

彼は、どんなに忙しくても、時間ギリギリまで電話を切ろうとはしなかった。

せめて電波ででも、可能な限り長くお互いを感じていたかったのだ。

 

仲秋の名月の晩に、彼にしては珍しく早い時間にメールをくれたことがあった。

「子供が、幼稚園で教わってきた"お月見"をしたいと言うので、2人で近くの公園へ来ているんです」

お月見なんてする余裕など何年もなかった私は、

「あら、今夜は満月なんですね。私もベランダへ出て、見てみます」

と返信した。

 

久し振りに見上げた夜空は澄んでいて、月が静かな光を放っていた。

月に穏やかな温かみを感じたのは、初めてかもしれない。

 

「月が、綺麗ですね」

とRがまたメールをくれた。

「はい、本当にね」

こうしてリアルタイムでメールをやり取りできるのも、私たちにはとても貴重なデートの時間だった。

 

「あれ?もしかして、ご存知ないですか?」

Rが唐突に聞いてきた。

「何をですか?」

と私が聞き返すと、

「夏目漱石です」

と返ってきた。

私は、彼が何を言いたいのか分からなかった。

「夏目漱石?」

「いや、いいんです。気にしないで下さい。

娘が帰ると言い出したので、そろそろ家へ戻らなければなりません。

あなたも同じ月を見ているのだと思うと、少し慰められました。

いい時間でした。ありがとうございます」

 

私は部屋へ戻ると、さっそく彼が言った言葉を検索した。

それから、スマホをぎゅっと抱きしめたことを思い出す。

 

10年経った今も、窓の外をのぞいてみると、月は変わらず静かに私を見下ろしていた。

今夜の月は、満月を過ぎたばかりの「居待月(いまちづき)」。
これを書きながら目に入ったのが"待つ月"とは、単なる偶然だろうか?

 

ふいに、涙がこぼれた。

待つことはしないと、とうに決めたのに、  彼のことを想うとまだ泣いてしまう自分がいる。 

 

彼は今夜も、夜通し論文を書いているかもしれない。

そして、この月を眺めているような気がしてならない。

(つづく……)

 

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