「私、そんなこと言ったかしらねぇ……?」
問いただす私に、母は最初はあいまいに答えていたが、なおも追及すると、
「だって心配だったのよ。あなた、悪い男に貢いでいるんでしょう?
え、ちがうの?……ごめんね、ひどいことを言って……」
とすすり泣き出した。
詭弁(きべん)だと思った。
私がこれまで男に貢いだことなど1度もないことを、母はよく知っているはずだ。
それに、仮にそれが本当に心配だったからと言って、私を泥棒呼ばわりする理由には全くならない。
(まさか、ボケの兆候なのかしら?だとしたら仕方ないのかなぁ……)
涙を流して謝る母を前に、私はそう自分を納得させた。
しかし、事態は急展開を見せた。
それからあまり日を置かずに、妹からこんな連絡が来たのだ。
母を妹の家へ移すと。
そして、介護施設が見つかり次第、入所させる予定だと。
突然の知らせだった。
そんな話、しょっちゅう顔を合わせているケアマネージャーからも、交代で母を看ている妹や叔父からも、私は1度も聞かされていなかった。
母は自宅で回復しつつあったし、その内リハビリにも定期的に通えるようになれば、
皆で交代で看るのも徐々に楽になっていくと思っていた。
私は慌てて実家を訪ねた。
しかし、すでに母は、介護ベッドごと居なくなっていた。
私は、もぬけの殻になった実家で、茫然自失と立ち尽くした。
こんなに急に、要介護老人を運び出せるはずがない。
妹と叔父、そしてケアマネージャーまでもが、
私にだけ黙って計画を進めていたのだ。
みな、まるで逃げるように消えていた。
妹は定職に就けず生活費に困っており、母は預金を持っている。
(そういうことか……)
私はその日から、母と妹、叔父への連絡を断った。
(つづく……)
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