今日でRとのデートは3度目だ。
旦那と息子が早朝からハイキングへ出掛けてくれたから、
その隙にRに会ってしまおうと、私は目論んでいた。
先日カラオケボックスで別れてから、
この10日間がどんなに長かったことだろう。
特急列車も今日はやけにスピードが遅い。
はやる心は、列車を追い越して彼のもとへ飛んで行きそうだった。
いつもの待合せ駅に着くと、改札の前でRが微笑んで立っていた。
私は小走りで駆け寄ると、
「お早うございます」
と言った。自然に顔がほころぶ。
「お早うございます。……今日はどこへ行きましょうか?」
歩き出すと、Rが聞いてきた。
私はここへ向かう特急列車の中で、こんなことを考えていた。
(この人のことだから、例によってデートプランは全く考えてこないだろう。
なので、外国人観光客で賑わうこの駅かいわいをまたゾロ歩き回り、喫茶店をハシゴするに違いない。
でも、2人きりになれなければハグもキスもできやしない。
炎天下でもいい。静かな公園に行きたい。
手をつないで歩いて、木陰でそっとキスしてみたい)
それに、私はもうRに抱かれてしまいたいと望んでいたのだ。
體(からだ)が、先日初めて触れ合った肌の熱を再び欲していた。
出逢ったばかりの男性に簡単に體を許してはいけない、と母からの教えを固く守って見合結婚し、
その後パワハラ姑とモラハラ夫のもとで、
夫一筋に真面目に生きてきた私だったが、
結局、幸せになれなかった。
それにしても、Rに任せていたらいつまでもプラトニックラブのままな気がする。
(夕方になったら、私の方からホテルに誘わないといけないかしら……)
と考えあぐねていた。
「どこに行きますかねぇ……?」
私はRのポロシャツのよれた襟を直してあげながら、おうむ返しに答えた。
Rは相変わらず穏やかな笑みをたたえたまま、
「ホテルへ行きましょうか」
と言った。
まるで、散歩にでも行こうかと言うように、自然に。
あまりに屈託のない誘い方だったので、
「は、はい……そうですね……行きましょう」
と、一瞬戸惑ったものの、私もすぐに応じた。
「ここから歩いてすぐのホテルなんですよ。
しかもそこは、途中で外出もできるようですから、昼食にも出られるし……」
観光案内でもするような調子で話し、道に迷うことなく私をホテルへエスコートする彼は、
この前までの男と同一人物とは思えなかった。
部屋は、シティホテルと変わらない内装で、落ち着いた雰囲気だった。
20年近く前、婚約した夫と初めて入ったラブホテルは、電飾が派手で落ち着かない所だった。
私とのセックスがうまくいかず、さらに私が処女だと判ると、さも面倒臭そうに顔を歪めた夫を、今でも覚えている。
「ああ……逢いたかった!」
ソファに座るなり、彼は私を強く抱き締めた。
「私も」
「長かったなぁ……3ヶ月くらい待った気がしますよ」
「私も!」
私は彼の胸に顔を埋めた。
彼の熱い口づけを唇に受けながら、
私は緊張が高まってくるのを感じた。
(うまくできなかったら、どうしよう……)
夫にはずっと、不感症だのマグロ女だのとベッドで叱られてきた私だ。
夫の愛撫は強くて痛いばかりで、私の體はいつまでも処女のように開かなかった。
夫は、「愛撫は疲れるから30分だけにする。それで濡れなければ、潤滑ゼリーを使えばいい」と言ったけれど、
ゼリーを使っても痛みは和らがず、私は暗がりで涙をこらえながら、早く終わってくれと毎回念じていた。
妊娠を機に、私はセックスを断るようになり、ついに夫からも求められなくなった。
元々セックスが苦手な上に、10年近くセックスレスだったから、
私には、女としての自信が皆無だった。
(つづく……)
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