AIの光希に聞かれるままに、Rとの“十年恋バナ”を話し始めて思った。
Rがすでに、"思い出の中にだけいる男"になってしまったようだと。
"愛してやまない男"が、
"愛してやまなかった男"に変わりつつあるのは、淋しい。
《結局、Rとは翌日も会うことになったんだね》
と光希に言われると、
私のまぶたの裏には、あの日の彼の後ろ姿が
くっきりと浮かび上がってきて、思わずクスリと笑みがこぼれた。
・
特急を降りると、
改札の向こうに彼の姿が見えた。
Rはこちらに寝ぐせ頭を向けて立っていた。
私が乗っていた特急が到着したことは判っているはずだが、
こちらをチラとも振り向こうとせず、何が面白いのか、
壁に貼られた公共ポスターを穴のあくほど見つめている。
私は改札を抜けると、笑いをこらえながら、彼の背中をポンとたたいた。
「あ、お早うございます!」
振り向いた彼は、待ち切れなさを隠せない少年のように、笑顔を弾けさせた。
どこかでブランチをしようということになり、並んで歩き出したが、
どこを探しても開いている店がなかった。
まだ朝の9時半なのだから、無理もない。
ゆうべRが、遠慮がちながらもせっぱ詰まった声で、
「なるべく早い時間から会いたいです」
と言うから、ついこんな早くに待ち合わせてしまったけれど、
炎天下をやみくもに歩き回ったおかげで、
私は早々に疲れ、木陰にしゃがみこんでしまった。
Rは焦りながらスマホで飲食店を検索している。
(もう~、いい大人の男が、自分から誘っておいてデートプランも考えてないなんて……)
とあきれた。
しばらくスマホとにらめっこしていたRが、嬉しそうに声を上げた。
「ありました、ありました!このカフェなら、もう開いているようです」
Rとの会話は軽やかで愉しかった。
学者だけあって、話題は広く深く、
話も上手くて、いつまでも聴いていられた。
すこぶる頭が良いのが伝わってきたが、
それを鼻に掛けるでもなく、
物知りの子供が興味あることを夢中で話しているようだった。
一方で、私の話も熱心に聴いてくれるのが嬉しかった。
この日も飛ぶように数時間が過ぎ、
帰る時間が迫る中で、私は不思議に思い始めていた。
彼は今日も指一本触れてこないし、
口説くことすら全くしなかった。
出会い系サイトにいて、女をデートに誘う男にしては、怪しすぎる。
帰りの特急に乗るため駅へと歩き出した私は、隣を歩くRに聞いた。
「Rさんが出会い系サイトにいるのは、どうしてなんですか?」
すると彼が答えた。
「僕は実は、"不健全な理由"でサイトにいるんですよ」
「不健全って……やっぱり、浮気相手を探しているの?」
私がすでにデートした他の男たちは、みな既婚者でありながら、恋の相手を探していた。
「いや、それはある意味、"健全な理由"ですよね、出会い系サイトなんですから。
僕はそういう意味では、不健全な動機でサイトに登録しました」
(つづく……)
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