私たちは相変わらず会話が途切れなかった。
先ほどから、狭い円形の展望室を何周もしている。
だいぶ日が落ちてきた窓の外を眺めると、
江戸川を見下ろせた。
オレンジ色に染まり出したビル群の谷間をぬって、
巨大な龍がうねっているようだ。
「うわぁ~、すごーい……川って大っきいー!」
私は思わず感嘆した。
彼は私を一瞬まじまじと見つめ、それから声を上げて笑った。
「ハハハ……そりゃそうですよ。川はこれくらい大きいですよ」
後で知ったことだが、
彼は、私のこのセリフにノックアウトされたそうだ。
恋のスイッチはどこにあるのか、分からない……。
そんなこととはつゆ知らず、
さすがに疲れた私は、
人でごった返すエレベーターを降りながら、
今度こそ帰ろうと思っていた。
ところがエレベーターを出ると、
またしても、彼が先を越すように言った。
「夕食を一緒に食べませんか?」
彼は、口説くことは一切しないくせに、
絶妙なタイミングで、あまりに自然に誘ってくる。
でも、Rらしいことには、
彼が連れて行ってくれたのは、
地下のフードコートだった。
(完全にないわ~……)
私は内心あきれつつ、
なぜ、こんなに冴えない男に、
昼間から夜まで付き合ってしまったのか、
我ながら不思議だった。
やたら照明が明るく、やたらにぎやかなフードコートで、
他の若者たちと同じ長テーブルに並んで座り、
2人して蕎麦をすすってから、帰途に着いた。
家に着くと、私は久し振りに充足感を感じていた。
(はぁ……私のひと夏の冒険が終わったわ〜……)
浮気する気まんまんで、
夫が留守の数日の間に、
出会い系サイトで気が合った4人の男たちと
思い切って実際に会ってみた。
最後に会ったのがRだった。
話は一番合ったけれど、
とうてい恋の相手として見れなかった。
先に初デートを済ませていた他の3人のうち2人は、
テレビマンと銀行マンで、
どちらもイケメンでスマートな、魅力的な男性だった。
彼らからは、次のデートを催促するメールが何通も届いていた。
私は、"にわかモテ女気分"でほくそ笑んだ。
(次は誰と、2度目のデートをしようかしらん♬)
と悩めることが嬉しい。
「四十過ぎたら、女じゃない」
と姑や夫にさんざん言われてきたのだもの。
小学生の息子も、私の実家へお泊まりに行っていて、いなかった。
私は久しぶりに、独身娘のような解放感を味わっていた。
それにしても困ったのは、
素敵な男性2人が、
2回目のデートではセックスすることを
強く期待していることがうかがえたことだ。
出会い系サイトで出会っているのだから、
それを期待する気持ちは十分理解できた。
むしろ、彼らはよくぞ、
顔写真も見せない女と
1ヶ月間も毎日メールを交わしてくれたものだと、
ありがたく思った。
彼らも、本気で"恋"を求めていたのだ。
彼らは見た目も好(よ)く、知的な紳士だったから、
以前の私なら喜んで付き合ったと思う。
でも、この時の私は、心が動かなかったのだ。
良い顔やスタイル、
高い学歴や社会的立場に
好感を持つことと、
恋する気持ちは別物だと、
思い知ったばかりだったから。
私はもう、「頭で」恋するのは嫌だった。
今度は、惚(ほ)れた男に脳幹がとろけるほど抱かれてみたいのだ。
彼らのメールを読み比べながら、
どう返事したものかと考えあぐねていると、
ふいに電話が鳴った。
Rからだった。
(つづく……)
※オススメ記事↓
※こちらもオススメ↓
※あなたの心がそよとでも動いたらポチッとして頂けると嬉しいです♬