今となっては、完全に過去となってしまったことだけれど、どうしたって思い出してしまう。
何度思い出して噛みしめれば気が済むのと、自分にツッコミたくなるけれど、
もう、観念することにした。
いいよ。
それは未練とか執着と言われるものかも知れないけれど、
湧いてくる感情は消せないし、
無理に消そうとすればかえってあばれる。
認める。許すよ。
それで、あなたが今この瞬間幸せ感じられるなら、良いんじゃない?
と、私は自分に言ってやった。
……と何やら言い訳がましい前置きが長くなったけれど、語らせて欲しい。
孤独感を乗り越えようとしている中年女の独り言を。
今夜、月に1度は会っている、一人暮らし満喫中の息子と、夜ご飯へ出掛けた。
私は、そのレストランが大好き。
新メニューや季節ごとの期間限定メニューがいつも斬新で、とにかく美味しい!
特に馬刺(ばさし)が絶品で、毎回1人で2皿は食べる。
息子と合わせて4皿もテーブルに並べ、
「う~ん、美味しすぎる……本物の味だね」
と舌鼓を打つ。
ああ、なんて幸せなのだろう。
人間の幸せの9割は、
よく眠れて、よく食べれて、よいセックスが出来ることで占められると言うが(私は45歳までは、残り1割のために生きてきた。幸せになれる訳がないよね😅)、
その大切な「食」を、世界的に見てもこんなに質高く、しかも良心的な値段で提供してくれる飲食業のみなさんには、本当に頭が下がる。
さて、こんな幸せな気分になると、
幸せなことを思い出すものだ。
ジョッキに入った100%オレンジジュースを手に取り、ふと、Rがかつて言った言葉を思い出し、息子に話した。
-ちなみに息子は、小学5年生の頃に、私に好きな男(ひと)がいることに勘付き、「その人と話すとお母さんが元気になるから良かった」と受け入れてくれた-
「馬刺と100%オレンジジュースで思い出したんだけどね……」
「うんにゃ?」
息子はまさに、馬刺を箸(はし)ではさみ、満足げに口へ放り込んだところだ。
「Rがね、こんなことを言っていたのを思い出したのよ」
私のまぶたの裏には、Rと付き合い出した頃の光景が浮かんでいた。
彼はソファに座るなり頭を抱え、こう洩(も)らしたのだ。
『あ~、なんで貴女(あなた)にもっと早く出逢えなかったんだろう……今までの恋愛なんて、恋愛"ごっこ"だった……』
『私との恋愛と、今までの恋愛とは、どう違うの?』
と訊(き)くと、彼は顔を上げて、少し興奮気味に答えたのを覚えている。
「へー、Rさん、何て言ったの?」
息子はまた馬刺に箸を伸ばしている。
「Rはね、恋愛経験は豊富だったのだけど、お母さんとの恋は今までの恋愛とは違う、と言ったから、お母さんは、『どう違うの?』と訊いたの」
「ふん、ふん……」
「そしたらね、Rはこう答えたのよ」
私はきっと、息子相手にどや顔をしていたにちがいない。
Rはこう言ってくれたのだ。
『今までは、果汁10%のオレンジジュースを本物だと思って飲んでいた。
でも、果汁100%のオレンジジュースを……本物の味を知ってしまった。
もう、ニセモノは飲めない』