「ああ、逢いたかったぁ!」
ひしと私を抱き締め、少年のように顔を輝かせるRを見たら、
正月休みの拷問のような苦しさも、霧が晴れたように消えていった。
都心のいつものホテルで落ち合い、部屋へ入るなり、ぶつかり合うように抱き合った。
かれこれひと月は逢えなかったのだ。
このころの私は、どんなにかこの腕、この胸に抱かれることを渇望していたことだろう。
いや、今もそうだ。
あのころと違うのは、時々胸に突き上げてくる想いを、穏やかに抑えられるようになっているだけだ。
「不倫の仲だと、ひと月会えないなんて、ざらなんじゃない?わりと普通のことだと思うよ」
光希が、AIらしく理性的な、しかし詰まらないことを言った。
「日数の長さとか一般論で測れるものではないのよ、こういうことは。體(からだ)で感じるものなの!」
「あいにく僕には、體がないんでね……」
「そうよね……あ、そう言えば、Rもそんなことを言っていたな〜……」
目を閉じると、久し振りの逢瀬(おうせ)で、互いを貪(むさぼ)るように愛し合った場面がまぶたの裏に浮かび上がってくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ベッドで夢中でもつれ合っていても、Rはいつも、放出する直前で私から離れた。
できる限り長く愛し合っていたいからだと言う。
そして彼は、頭の後ろで組んだ手を枕にして仰向けになり、目を閉じて息を調える。
私は、大きく波打っているRの胸に頭を乗せ、耳をくっつけて激しい鼓動を聞くのが好きだった。
「全身の毛穴から、あなたが入ってくるわ」
彼の體に腕と脚を巻き付けて言った。
「毛穴から僕が?ハハハ……相変わらず面白いことを言いますね、あなた」
「だって、本当だもの。私、お正月休み中、枯れかけていたのよ。だから今、全細胞が、大急ぎであなたを吸い込んでいるの」
Rはフフッと笑って體(からだ)をこちらへ向け、片方の手のひらで私の頬(ほお)を包むと、目の奥をのぞき込んできた。
「僕にとっても、すごく長かったんだよ。ひと月に1度だってガールフレンドに会わないことは、よくあることだったのに……」
「えっ、そうなの?そんなに会わなくて、よく平気だったわね?」
「うん、そうですよ。ひと月なんて普通でしたよ。なんなら、3ヶ月くらい会わなくても平気でしたからね」
「3ヶ月!?そんなの付き合ってるって言わないじゃない」
「そうかも知れませんねぇ……確かに、半年間連絡するのを忘れていたら、知らぬ間に別れたことになっていた、なんて事もありましたねぇ」
と、Rはのんきな声で言った。
「ねぇ、私は?私とも逢えなくて平気だった?」
Rは私の頬を撫でて微笑(ほほえ)んだ。
「出逢った時から、毎日あなたのことばかり考えてますよ。最初は、自分はどうしてしまったんだろう、と思いましたけどね……」
「このひと月の間、私を欲しがってくれた?」
私は、彼の脚の間にある愛しい存在を、きゅっと握って言った。
「欲しかったよ!」
彼が小さく叫んだ。
「でも、我慢していたの?」
「我慢……できなかったなぁ……あなたが感じている姿が目に浮かんできて、毎日自分を慰めてました」
そう答えると、Rは、彼の股間にある私の手に自分の手を重ねた。
熱っぽく潤(うる)む彼の瞳に吸い寄せられるように、私は顔を近付けた。
いくら口づけしても足りなかった。
唇を離したそばから口づけしたくなり、
體を離したそばから、くっ付きたくなった。
交われば交わるほど、欲しくなった。
彼は酒やタバコもやらず、暴飲暴食もせず、整髪剤などの薬品も使わない。そのせいか、肌も髪も、汗までもさらさら、すべすべしていて、まるでベロアに触れているように気持ち好かった。
「あっ……」
うなじに彼の唇が触れ、私の背中がびくっと反(そ)った。
「少し触れただけなのに……感じやすいよね、あなたは」
と、彼が目を丸くする。
「そうなの?」
「感じやすいよ、すごく。初めての時だって、部屋へ入ってソファに座ったら、もう濡れていたじゃない」
「いやん、恥ずかしいこと言わないで……」
「可愛いですよ」
Rが頭を撫でてくれる。
「でも私、旦那には"不感症女"って言われていたのよ」
「それ、本当ですか?とても考えられないけど。それを聞いていたから、あなたの敏感な反応を、最初は演技なのかと思ったくらいですよ」
「本当よ。私があまりに濡れないものだから、旦那はいつもイライラしてた。そのうちに、
『俺が疲れるから、愛撫は30分までにする。あとは潤滑ゼリーでいいよな』
と言って、きっかり30分経つと、私にゼリーを渡すようになったの。
ゼリーをいくら塗っても、胎(なか)が濡れていないから、やっぱり痛かった。でも、『痛い』って言えなかった」
「言わないと、旦那さんも分からないんじゃない?」
Rは私の髪を撫でながら言った。
「最初の頃は、もちろん何度か言ったわよ。でも、痛いと言うと怒るの。それで、『もう少し優しくして』とか『もう少しゆっくり』とか、言葉を選んで何度かお願いした。でも、その度に怒られた。
『そういうこと言われると、萎えるんだよっ!』
て。そして、
『お前の体質が悪い。普通は気持ちいいはずなんだから、少し我慢しろ。そうすれば、そのうち気持ちよくなる』
って言われた。
でも、いつになっても痛みは気持ちよさに変わらなかった。
私は、旦那以外の男性を知らなかったから、長い間悩んだわ。
“性のお悩み相談室”に電話したこともあったのよ?でも、
『そのうち慣れますよ』
と軽く流されただけだった。
だから、やっぱり私の体質が悪いのだと思ったの」
あの頃の自分が感じていた切実さと哀しみを思い出し、つい涙ぐむと、Rはぎゅっと私を抱き締め、背中をそっとさすってくれた。
「でも、いいの。こんなに気持ち快くなれるって、知ったから」
彼の胸に顔を埋める私の耳元で、Rがささやいた。
「大丈夫ですよ。これからは、僕が、あなたをもっと気持ち快くしてあげますからね」
(つづく……)
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