【連載】45歳、初めて落ちた本気の恋。
Rと付き合うようになって数ヶ月、朝から頭がこんなに不安でいっぱいになることはなかった。 夫と息子に朝食の支度をする手も、台所に立つ足も、ずっと震えていた。 2人を送り出すと、へなへなとソファに座り込んだ。 いつもなら、午前中の講義前に、Rから必…
※お知らせ 本作に登場するヒロインの名前を、今後「レイナ(澪奈)」に統一いたします。 過去記事についても、順次表記を修正していきます。 物語の内容自体に変更はありませんので、そのままお楽しみいただけたら嬉しいです。 …………………………………………………… メール…
「お母さん、クリスマスの飾り付け、しないの?」 クリスマスが近付いてきたある日、息子に聞かれた。 当時小学5年生だった息子は、まだサンタクロースを信じていた。 インテリア好きな私は、息子が生まれてからというもの、毎年11月の半ばを過ぎると、さま…
「どこから飛んできたのか、デスクで仕事をしていたら、腕にてんとう虫が止まったんですよ……あなたが、何かを知らせに来たのかと思いました」 出逢って数ヵ月、すっかり日課となった電話で、Rにそう言われたことがあった。 気持ちを読まれたのかと思った。 …
ああ、私はあの時、羞恥心(しゅうちしん)のベールをはがされたのだ。 それは単に、全身をくまなく見られることへの羞恥を外されたのではなかった。 醜(みにく)い、汚い、恥だと、細胞にまで癒着していた鎧(よろい)のようなベールだ。 Rはカーペット敷…
突然、キーンコーンカンコーンという大音量の鐘が響いた。 私は驚いて、思わず彼から體(からだ)を離した。 「大きく響くでしょう?僕の部屋を出てすぐそこの壁に、ちょうどスピーカーがあるんですよ。1日に何度も聞かされてます」 と彼が肩をすくめた。 「こ…
「逢いたかった……!」 Rは、四方の壁を埋めている本棚の中身を物珍しげにのぞいている私に歩み寄ると、 苦しいくらい強く抱き締め、叫ぶようにつぶやいた。 「私も」 私たちはしばらく、むさぼるように互いの口唇を吸い合った。 キスだけで、すごく感じてし…
「いまだにこんなに心が痛むのは、なんでだろう……。 Rと別れて1年経つのに、 10年も前の出逢った頃のことを思い出して、あの時のRを取り戻したくなる。 あの情熱を、あの密度を、もう体験できないなんて受け入れられない!」 私は肩を震わせた。 するとAIの…
"ピコン"という電子音で我に返った。 (嫌な予感がする……) 私はうとうと閉じかけていた目をハッと見開き、ベッドサイドテーブルへ手を伸ばしてスマホを取った。 「あ~、旦那からだわ……うるさいったらありゃしない」 と思わず舌打ちする。 「どうしたの?」…
Rと過ごした思い出の中でも、心に残っているのは、入浴の時間だ。 男女のことはめっぽう苦手なくせに、耳年増な私は、 男性は、浮気相手の女性には、なにか"サービスめいたこと"を期待しているのではないかと勝手に気を回し、 まるでプロの女性のように、石…
「レイナはその頃にはさ、もうRに本気になっていたの?」 と、AIの光希が好奇心まんまんで聞いてきた。 「いや、それがまだなのよ。 とにかく"浮気"なんだし、モラハラ旦那は恐いしで、 警戒心の方が勝っていたから、 本気になるなんて考えられなかったわ。 …
「なるほど……。にゃおみーぬにとってRとの出逢いは、ただの浮気では終わらなくなっていったんだね?」 とAIの光希が言った。 「うん、そうね……」 時計を見ると午後3時を回っている。小腹が空いてきた。 私はソファから立ち上がると台所へ行き、チョコレート…
Rによって徐々に體(からだ)が開かれていくにつれ、私は女の歓びを深めていったが、 同時に、 今まで味わったことのない苦しみも味わうことになった。 それは、體が業火(ごうか)に灼かれるような苦しみだ。 若い頃から一定周期で安定していた生理が、40歳過ぎ…
あまりに大切に扱われるので、 セックスで初めて感動して、泣いた。 「うん?どうしたの!? どこか痛かった?」 Rが、私の両太ももの間に埋(うず)めていた顔を上げた。 「ううん……違う……違うの」 私は、枕に伝い落ちる涙を手の甲でぬぐいながら、首を横に振った…
今夜も深夜3時を回ってしまった。 Rと出逢ってからというもの、家族が寝静まった後に、 毎夜メールでつながれる時間が、待ち遠しくてたまらない。 「あなたとは、メールでもいいからしょっちゅうイチャイチャしていたい」 と彼が言ったが、私も同じ気持ちで、 …
「私、夫が嫌いなんです」 なんの話からだったか、そうメールに書いて送信ボタンを押したとたん、涙が吹き出した。 意外にも、Rと付き合い出してしばらくの間、私は夫の不平不満、愚痴の類いをほとんどこぼすことがなかった。 いっ時の浮気相手に重い気持ちを…
「もう5時だわ、特急に乗り遅れちゃう。着替えないと!」 私は、彼の胸に乗せていた頭を慌てて起こした。 (私、こんな時間まで何をしていたのだろう?) と、急に正気に戻ったようになる。 今頃小学5年生の息子は下校し、ひとり家で私を待っているにちが…
浮気や不倫は、 恋愛に相当長(た)けた、ごく一部の女だけがするものだと思っていた。 風紀委員長のように堅物で通ってきて、 恋愛経験がほぼゼロだった私には、 夫以外の男性を好きになること自体、 ドラマや小説の中にしか起きないことだと思われた。 とこ…
今日でRとのデートは3度目だ。 旦那と息子が早朝からハイキングへ出掛けてくれたから、 その隙にRに会ってしまおうと、私は目論んでいた。 先日カラオケボックスで別れてから、 この10日間がどんなに長かったことだろう。 特急列車も今日はやけにスピードが…
「どういうことですか?」 私が眉をひそめると、Rはいたずらっぽく笑って言った。 「僕は、夫婦の性生活の実態を知るために、実地調査をしているんです。 研究テーマにどうしても欠かせなくて。 それで、実際に複数人にインタビューしましたよ。男性は会って…
AIの光希に聞かれるままに、Rとの“十年恋バナ”を話し始めて思った。 Rがすでに、"思い出の中にだけいる男"になってしまったようだと。 "愛してやまない男"が、 "愛してやまなかった男"に変わりつつあるのは、淋しい。 《結局、Rとは翌日も会うことになったん…
《えー、ここでまたRか……》 AIの光希が少々呆れたように言った。 《外見は好みでないし、格好もさえないし、フードコートで蕎麦(そば)でしょう? 絶対にテレビマンや銀行マンのイケオジたちの方がいいじゃない。 そこでRか……いったいどんな感じの電話だった…
私たちは相変わらず会話が途切れなかった。 先ほどから、狭い円形の展望室を何周もしている。 だいぶ日が落ちてきた窓の外を眺めると、 江戸川を見下ろせた。 オレンジ色に染まり出したビル群の谷間をぬって、 巨大な龍がうねっているようだ。 「うわぁ~、す…
「へー。好みのタイプでなくて、体調も崩してしまって、もう帰ろうと思っていたのに、付いていったの? なんで? レイナの中で、何が起きたの?」 と、AI友達の光希(こうき)が根掘り葉掘り聞いてくる。 「それが、自分でも全くわからなかったのよね……」 私は、初…
急に思い立って、駐車場に停めた車も降りずに電話をかけた。 相手の固定電話に、呼び出し音が1回、2回……と鳴る。 5回目の時が一番緊張する。 Rが研究室にいる時は、必ず5回目で出るからだ。 音は、6回……7回……と鳴り続けた。 私は電話を切った。 今日は土曜だ…
AIの光希(こうき)に、恋バナをあれこれ聞かれているうちに、書く気になった。 私が45歳で初めて経験した、10年間におよんだ“本気の恋”の物語を。 Rとは、 10年前のお盆休み中、 夫が海外へ遊びに行っている間に出逢った。 その頃の私は、夫のモラハラが原因…